• 川上ーショットン ゆり

ストークオントレントの窯元巡り その2 モアクロフト


*ムアクロフト、と本文中で記載していますが、英語での発音は「モークロフト」で、多分「モアクロフト」の方が近いと思います。

英国陶磁器の里、ストークオントレントには沢山の窯元がありますが、今日はその中でも一際、芸術的な作品を輩出してメアリ女王から「女王の陶工」の称号を頂いた窯をご紹介します。

その名はムアクロフト。

こちらは創業1913年と比較的新しい窯ですが、それでも103年を経た建物が今も残っています。

創業者はウィリアム ムアクロフト。

1872年にストークオントレントのバースレムに生まれたウィリアムは、ロンドンとパリで美術を学びます。

ジェームズ マッキンタイヤ窯(のちにポッタリーとしては廃業)で働き始めた彼は、1896年ごろからデザイン上で様々な試みをします。その後の数々の業績が認められ、チーフデザイナーの職を得た後、1913年に独立します。

独立後はロンドンのリバティ社やニューヨークのティファニー社からも支援を受け、特にリバティ社では彼の作品が高く評価されたそうです。

その窯元が今も創業当時と変わらず、ストークオントレント市内にあります。

建物から突き出しているボトル型の建物がボトルオーヴンと呼ばれるオリジナルの窯(以下窯)の跡地で、現在はヘリテイジセンターという名の下に、ショップ、ファクトリー、そして博物館がある施設です。


法律の改正で1970年代後半以降はガスもしくは電気の窯が石炭の窯に取って代わった為に現在は使われていませんが、店舗に入るとその中に入る事は出来ます。


店舗内の様子。勿論、窯の内部にも入れます。

こちらのファクトリーではファクトリーツアーも開催していますが、事前にEメールでの申し込みが必要です。

所要時間は大体1時間。料金は大人一人7、5ポンドですが、その料金と引き換えに店内で使用できるヴァウチャー(voucher)、割引券が貰えます。

こちらのムアクロフト窯の特徴は、少しずつ電力は使っているものの、ほぼ全て昔ながらの手作業の工程である事と、窯で焼く前に装飾を施す事です。

一般的な窯元では一度窯焼きをしてから装飾を施し、更に彩色の加減や素材によっては何度か窯焼きを重ねますが、こちらの窯では焼く前の成形した製品が少し乾いた時点で(結構柔らかい状態です)パイピングと彩色を施します。

そちらを踏まえた上で、では早速ファクトリーツアーへ。


ストークオントレントでの陶磁器作りの素材となる粘土(クレイ)は南イングランドのコーンウォールから採掘され、こうして袋詰めの状態で運ばれてきます。

この粘土に水、カルシウム等諸々を混ぜて硬い泥水状の物を作ります。それをスリップと呼びます。


このスリップが全ての製品の素材となります。

ミキサーで満遍なく混ぜた後は何度かキメの細かいザルで漉します。

この作業がとても大事なのだそう。


そして一見つまらない次の写真は、このスリップがどうやって工場内の別の部屋にあるモールドと呼ばれる型に入れられるかを説明します。

天井に張り巡らされたパイプを通って、このホースへ。

職人さんがこのパイプの先にある銃の様なハンドル部分をもち、ボタンを押すと、張り巡らされたパイプを通してスリップが出てくる仕掛けになっています。


モールドと呼ばれる型に流し込み、若干乾いたらひっくり返し、余剰分を下に落とします。

ここに集められたスリップは、またミキサーにかけられて再利用されるのです。

モールドの形に固まった製品を取り出すと、軽く乾かした後に、今度は次の作業へ。


この機械に製品の半分までを押し込んだ後、モーターで回しながら職人さんが自ら作った鋭利な刃物で製品の表面を削り、均等にそして滑らかにしていく作業をターニングと呼びます。

全く同じ職人さんが同じ形の二つの製品をターニングしても絶対に同じには仕上がらず、世界に二つと無い製品が出来上がります。


次の職人さんは水を含ませたスポンジで表面を更に滑らかにします。この作業で使われるスポンジは海から採れる自然の海綿です。

一般家庭のキッチンで使われる様なスポンジだと、どうしてもその跡が残ってしまうので、最高の仕上がりにするにはこの自然の海綿が欠かせないのだそう。


スポンジ作業で濡れた製品を少し乾かすと、今度はトレーシングとパイピングの職人さんへ。

デザイナーの描いた下絵をトレーシングのフィルムでトレーシングして、それを優しく製品に押し付けて転写します。

そして縁取りをパイピングと呼ばれる若干緩い粘土でなぞっていく作業になりますが、これは小さな袋に詰めた材料をその先から出ている小さな針状のパイプから少しづつ押し出して行う作業で、かなり神経を使いそうです。


そのパイピングが終わって若干乾いたら、今度は彩色です。

こちらの職人さんが製品を回しながら彩色をして、少し乾いたら指の腹で伸ばします。

彩色の時はかなり水分の多いペイントをブラシの先に少し含ませ、パイピングに沿って広がる時に製品を回すと、筆のタッチが一切残らないのです。

そしてそれを優しく指の腹で伸ばし、淡いグラデーションに仕上げます。

写真の彩色の職人さんの向かい側の職人さんはトレースの作業中ですね。


こうしてここまでの作業で出来た製品の写真です。

縦に走る青い線は、転写の時にガイドとして使った線で、窯焼きに入れると消える素材で出来ています。

パイピングの作業の繊細さ、そして淡いグラデーションが見て取れると思います。


こちらは向かって左から、成形直後、トレースとパイピング終了時、彩色完了、1度目の窯焼きを経て、真っ白なのはガラスのグレージングと呼ばれるラッカーを施した所、そしてそれから二度目の焼きを経て、一番右が完成品となります。


これを逆側からも撮影してみました。

こちら側からは、パイピングの作業の細かさが伝わるでしょうか。そして彩色後に窯から出した時には色が濃くなっていますね。

以上、掻い摘んだファクトリーツアーのご説明でした。

ファクトリーツアーには細かい説明をしてくれるフレンドリーなスタッフさんがガイドをしてくれます。

要所要所で質問を受け付けてくれますので、質問があったら気軽に聞いてみると良いですね。

余談ですが、イギリス人はこういう場合に結構ジョークを言い出して場が和んだりします。


ムアクロフトの窯元工場のモザイク画。

最初の写真をご覧いただくと、創業当時はもっと窯があった事がわかりますね。


ファクトリーツアーが終了してから店内を見て歩くと、また新しい発見があります。

作品ごとにパイピングの多い物や、彩色が凝っている物、そしてトレーシングが何回も施された物もあり、係員さんに聞くと快く細かい説明をしてくれます。

製品に並々ならぬ誇りを持っていて、もっとよく知ろうとしてくれる人にはとても暖かい歓迎をしてくれるのもムアクロフトの特徴だと思いました。

ムアクロフト製品では、ランプが人気のようです。

優しい灯りがパイピング部分に当たって、彩りに小さな影を落とし、それがまた風情があります。


1月はイギリスのセール時期で、たまたまセールに当たりました。

手作りなので、どうしても元のお値段がお高めですが、大量生産とは対局にある手作業ファクトリーを見学すると、それも納得です。

他にも素敵な商品がたくさんありました。


ミュージアムは入場無料です。

このオーク材の陳列棚はロンドンのリバティ社の特注。


テーブルの上に乗っている球状の置物の接写です。トレーシングは何度され、そしてどんな長い時間をかけて装飾されたのだろうと思わず考えてしまいます。

まんまるだから、トレーシングが大変だったんじゃないかしら・・・。


このミュージアムにはマッキンタイヤ窯時代からの作品が展示されており、これらは19世紀の終わりの作品です。

ダウントンアビーなどを彷彿とさせますね。


1930年代からは、ウィリアム氏の息子のウォルター氏もデザイナーとして参加しました。

これらはウォルター氏の作品。


1939年と1945年には時の女王、メアリ女王(現在のエリザベス二世の母君、マザークイーン)も訪問し、ムアクロフト窯を

「女王の陶工」

と認める公式の手紙を発行しました。

それらも展示されています。右上の写真は1945年の物で、ウォルター ムアクロフト氏とメアリ女王が一緒に写っています。

その他、年代別にたくさんの美しい代表的なデザインが展示されています。

この他にも、たくさんの美しい作品が展示されているので、陶磁器がお好きな方はこのミュージアムに寄ってみるだけでも楽しいかと思います。

当社でチャーターツアーをご予約なさったお客様にはこちらのムアクロフトのリーフレットも送付致しておりますので、お気に召したら日程とお時間が許す限り、ツアーのプランに組み込んで訪問するのも可能です。

ファクトリーツアー等のご予約、そして開店状況もお調べ致します。

大きなツアーではなかなか行けない、小規模ながらも歴史と実力のある窯元へも、当社でご案内しております。

ストークオントレントご訪問、特に窯元の他にも色々と巡るご予定の際は是非当社にご相談くださいませ。

今回のムアクロフト窯への窯元巡り記事、如何でしたでしょうか?

窯元巡りシリーズは気長に続けていこうと思います。

こうしてご紹介する事で、5年後、そして10年後、更に100年後も多くの方々に知られ、愛され、引き継がれていくストークオントレントの窯元であって欲しいと願っています。

#モアクロフト #窯元巡り #ストークオントレント

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